1/31(日)に『サミュエル・フラー自伝 私はいかに書き、闘い、映画を作って来たか』刊行記念として『チャイナ・ゲイト』『ショック集団』『裸のキッス』連続上映をします。会場は前29(金)、前々日30(土)に開催される「札幌爆音上映 vol.3」と同じく札幌プラザ2・5 地下劇場メッセホールです。会場では特別価格にて『サミュエル・フラー自伝』の販売もあります!1/29からの週末にお楽しみいただけるプログラムをご用意しておりますので、ぜひご来場ください。
「札幌爆音上映 vol.3」上映の詳細はこちらから http://tab-sapporo.com/bakuon2016/
またこの3作品を中心としたフラー作品の上映は、札幌以降は東京、山口、京都、名古屋での上映も予定しています。
日本初公開となる待望の『チャイナ・ゲイト』、正常と狂気の境界が融解する『ショック集団』、そしてフラー作品の中でも異色作の『裸のキッス』。
どれもサミュエル・フラーの映画と言うしかない独自の風貌と、しかしあくまでもこれは絶対に映画であるこれこそが映画だと断言したくなる映画の強さを持った作品たち。誰もがどこかでこのような映画を作りたいと思っているにもかかわらず、フラーでしか実現できなかった正統的かつ歪んだ世界の姿に、わたしたちはここで直面することになる。
さあ、目を大きく開いて、それを真正面から受け止めようではないか!
<スケジュール>
1/31(日)
11:00~12:50 ショック集団
13:20~15:00 裸のキッス
15:30~17:15 チャイナ・ゲイト
※各回上映開始30 分前より受付を開始します
※複数作品をご鑑賞の方は、まとめて受付可能です
<料金>
1プログラム券 ご予約1,300円/当日1,500円
3プログラム券 ご予約3,000円/当日3,500円
ご予約、お問い合わせ◉小野朋子(オノ トモコ)
ono.tmk(アットマーク)gmail.com/Tel.080-1876-5061
※メールの際は上記の(アットマーク)を「@」に変えて送信してください
<会場>
札幌プラザ2・5 地下劇場メッセホール
Tel: 011-221-8748 札幌市中央区南2条西5丁目
(狸小路5丁目HUGマート右隣り入り口から地下へ)
提供:マグネット・コミュニケーションズ/配給:boid
チャイナ・ゲイト CHINA GATE
1957/アメリカ/97分/BW/シネマスコープ
製作・脚本・監督:サミュエル・フラー
撮影:ジョセフ・バイロック
音楽:ヴィクター・ヤング
出演:ジーン・バリー、アンジー・ディッキンソン、ナット・キング・コールほか
『鬼軍曹ザック』(51)以来、フラーはジャンルを問わずアジアを舞台にした作品を数多く手がけている。本作もそうした一本。
第一次インドシナ戦争時の1954年(仏領インドシナからフランスが撤退した年)。かつて朝鮮戦争で戦ったアメリカ人ブロックとゴールディは、今や傭兵としてインドシナでフランス外人部隊に所属していた。やがてブロック率いる破壊工作班が、敵地を潜り抜けて中国国境にあるベトミンの軍需品集積場を爆破しに行くことになる。彼らの案内役に雇われた欧亜混血女性リーアはもともとブロックの妻だったが、彼との間にもうけた息子共々捨てられていた。現在五歳となったこの息子が、東洋人的風貌の持ち主だったためである。案内役を果たす見返りとして、リーアは息子を合衆国へ避難させる約束を仏軍と交わしている。やがて一隊は、危険な任務を遂行するべく出発する……。
“ラッキー・レッグズ(幸運の脚)”の愛称で呼ばれるリーア役を演じるのは、アンジー・ディキンソン(登場場面からその長く美しい脚がシネマスコープ画面で強調される)。白人と有色人種(この場合は混血)の恋愛描写は、『東京暗黒街・竹の家』(55)から始まり、本作を経て『赤い矢』(57)、『クリムゾン・キモノ』(59)へと引き継がれる、異人種間ロマンスの成就を積極的に描いたフラー作品の系譜に属する。偏狭な白人兵ブロックと対照されるのが、人間的暖かみに溢れた黒人兵ゴールディである。自らの分身めいたこの役にスター歌手ナット・キング・コールを起用した(同役は、脚本段階では黒人を想定して書かれていなかった)点にも、人種的偏見を自作で打ち破ろうとする作家の意思を感じさせよう。
『サミュエル・フラー自伝』より
「この映画では、理解と寛容を訴えたかったのだ。さまざまな夫婦、さまざまな人間、さまざまな民族同士が共生してゆくために欠かすことのできない理解と寛容を……われわれの子どもたちが戦争などもう起こらない未来を過ごせるように、もっと思いやりのある世界規模の考え方をするのが、この地球という名の小さな惑星に生きる人々の責務である」
ショック集団 SHOCK CORRIDOR
1963年/アメリカ/101分/BW(パートカラー)/1.78:1
製作・脚本・監督:サミュエル・フラー
撮影:スタンリー・コルテス
音楽:ポール・ダンラップ
出演:ピーター・ブレック、コンスタンス・タワーズ、ジーン・エヴァンスほか
フラーの大ファンとして知られるジャン=リュック・ゴダールが、1965年度のベストテン映画の一本に挙げた神話的傑作。
新聞記者ジョニー・バレットは、精神病院で起こった殺人事件を解明することで、手っ取り早くピューリツァー賞を受賞しようと野心を燃やしている。彼は嫌がる恋人キャシーに無理矢理妹のふりをさせ、近親相姦的欲望を抱く性倒錯者を装って院内に潜入し、殺人を目撃した三人の患者に接近して下手人の正体を暴こうとする。その三人とは、共産主義者に洗脳された朝鮮戦争帰還兵、南部の大学で人種差別待遇を受けた黒人青年、原爆開発に寄与した天才科学者である。しかし周囲に感化されたジョニーは、やがてキャシーのことを本当に自分の妹だと思い込み始め……。
本作の主要舞台と呼べる病院内の長く無限に続いてゆくかに思われる廊下は、低予算の厳しい制約下、ジャン・ルノワールとの名コンビで知られる美術監督ユージーン・ルーリーが偽の遠近法を活用するなど独特の創意を発揮して作り上げたセットである。ルーリーのセットを少ない光源を用いて見事な白黒画面に収めたのは、『偉大なるアンバーソン家の人々』(42)や『狩人の夜』(55)の名撮影監督スタンリー・コルテス。誇大な野心に潜む狂気が病院内の患者や電気ショック療法のおかげで増幅されたジョニーは、ついにこの不気味な廊下で発狂する。廊下の時空が激しく歪んで彼の譫妄状態とシンクロするその瞬間の視聴覚表現は、まさしく衝撃的としか言いようがない。
『サミュエル・フラー自伝』より
「劇中では精神障害、人種差別主義、愛国心、核戦争、性倒錯を扱っていた。こうした主題群を軽率に扱うことなど、できるはずがない。断固として観客を挑発してやりたかったのだ……この映画に登場する精神病院は、アメリカのメタファーであった。患者の腫瘍を見抜くX線のごとく、『ショック集団』はわが国の病にメスを入れるのだ。さまざまな問題を率直に診断することなくして、問題修復など望めまい」
裸のキッス NAKED KISS
1964年/アメリカ/91分/BW/1.78:1
製作・脚本・監督:サミュエル・フラー
撮影:スタンリー・コルテス
音楽:ポール・ダンラップ
出演:コンスタンス・タワーズ、アンソニー・アイスリー、マイケル・ダンテほか
『ショック集団』(63)に続いて同じ製作者の下で撮られた本作には、美術のルーリーや撮影のコルテスほか、前作の主要スタッフがそのまま引き継がれている。
横暴なヒモに反撃して大都会を逃げ出した売春婦のケリーが、グラントヴィルという名の小さな町にやって来る。ケリーは早速地元の警察署長を相手に“商売”をするが、そのとき署長は彼女に町を出てゆくように言う。しかしケリーはその警告に耳を貸さず、これまでの生き方を捨てて町の病院で肢体不自由児の世話をする看護師助手として働き始める。やがて彼女は、署長の親友で町の名士であるグラントと知り合い、恋に落ちる。だが夢のような交際期間を経ていよいよ結婚となったとき、ケリーはグラントの抱える恐るべき秘密を知ることになるのだった……。
冒頭、コンスタンス・タワーズ演じる主人公ケリーが自らを搾取してきたヒモを叩きのめすアクションの強烈ぶりは、最初の一撃で観客の急所をとらえて離さない、フラー映画ならではの“つかみ”が最大限の効果を発揮した場面だと言えよう。この元売春婦が一見平穏な田舎町に潜む不誠実・悪意・偽善・不寛容・憎悪と孤独に闘う姿を描き出した本作においては、『拾った女』(53)や『チャイナ・ゲイト』(57)、あるいは『四十挺の拳銃(57)』に登場した、偏狭な男性社会の中で奮闘する気丈なヒロイン像が最も純化されたかたちで差し出されている。
『サミュエル・フラー自伝』より
「これまで世界中のいろいろな映画監督に、『裸のキッス』の冒頭シークエンスには影響されましたよと言われた。そう言われると、いつだってご機嫌になる。だが当時、わたしはただケリーという人物を嘘偽りなく描きたいと思っていただけなのである。ひとつの真実を示したいという思いだけが、映画言語の拡張を促すこともあるのだ」
サミュエル・フラー自伝
わたしはいかに書き、闘い、映画をつくってきたか
サミュエル・フラー、クリスタ・ラング・フラー、ジェローム・ヘンリー・ルーズ著
遠山純生訳
A5 判並製/784ページ/定価:6,000 円+税
ISBN: 978-4-86538-045-3
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